連載「明日の選択肢を変えるAgeTech!」では、アクティブチョイス世代の明日が変わるかもしれないAge Techの事例をご紹介します。日本最大のメディア総合イベントであるInterBee2025からお届けします。第四回はアメリカドジャーズが投資している未来のスポーツテックについてお届けします。
皆さんは、大谷翔平選手らが活躍するロサンゼルス・ドジャースが、「投資」をしていることをご存知でしたか?
私は正直言って、知りませんでした。
ドジャースには、「ELYSIAN PARK VENTURES(エリシアン・パーク・ベンチャーズ)」という傘下のベンチャーキャピタルがあり、現在約70社もの企業に投資を行っています。なぜ、野球チームが投資を行うのか? 彼らは投資を通じて、どんな未来を作ろうとしているのか? InterBEE2025の基調講演に登壇した、同社マネージングパートナーのJay Adya(ジェイ・アディヤ)氏と、スクラムベンチャーズの宮田拓弥氏による対談から、スポーツとエンタメの最前線をダイジェストでお届けします。

ドジャースのベンチャーキャピタルが持つ「秘密のアドバンテージ」とは?
ドジャースのベンチャーキャピタルが持つ「秘密のアドバンテージ」とは?
Elysian Park Venturesは、約12年前にドジャースのオーナーグループによって設立されました。その目的は「スポーツの未来」へ投資すること。初期段階のスタートアップから成長企業まで、幅広く支援しています。一般的な投資会社と大きく違うのは、「ドジャースという現場」をフル活用できる点です。例えば投資先の企業は、ドジャースのトレーナーやコーチ、選手たちに、開発中の製品をテストしてもらったり、フィードバックを受けたりすることができます。

Elysian Park Ventures Managing PartnerのJay氏
ドジャーズの現場を製品開発に活用した事例【スマートリング「Oura Ring(オーラリング)」】
指輪型の健康管理デバイスとして有名な「Oura Ring」も投資先の一つです。 開発過程ではドジャースのトレーナーやパフォーマンススタッフが実際使って検証しました。プロのトレーナーによる知見を精査プロセスに取り入れられる点においてはElysian Parkの大きな優位性といえるでしょう。
野球だけじゃない!「ファンの熱狂」と「スポーツの構造」への投資
彼らの投資対象は野球に留まりません。そこにはユニークな投資哲学があります。Jay氏は二つの投資事例を紹介しました。
事例1【スポーツベッティング(DraftKings)】
最も成功した事例の一つが、スポーツベッティングの会社であるDraftKingsです。 単なるギャンブルとしてではなく、「賭けることで、試合への熱量や視聴時間(エンゲージメント)が高まる」というデータに基づいて投資を決断しました。もちろん、不正や八百長を防ぐための監視システムの導入を大前提として、スポーツの楽しみ方を広げています。
事例2【バレーボールリーグ(LOVB)】
ユニークなのが、米国のバレーボールリーグ「LOVB(リーグ・ワン・バレーボール)」への投資です。ここで着目したのは「ピラミッド理論」でした。野球の参加人口構造には、頂点のメジャーリーグ(MLB)を支えるマイナー、大学、高校、そして少年野球という巨大なピラミッド構造があります。バレーボールリーグの構造がこれに似ていることに気づきました。 そこで、いきなりプロリーグを作るのではなく、まず底辺となる「子供たちのクラブチーム」を35〜40チーム保有して土台を作り、その数年後に頂点の「プロリーグ」を立ち上げるという、ピラミッドを一気通貫で構築する戦略に投資をしたのです。
スポーツのエンゲージメントを高める装置としてスポーツベッティングの企業に投資を行ったり、バレーボールの参加人口の増やすために、構造の土台となる事業に投資するなど、スポーツの未来を実現とするための投資を行っています
データとAIで、プロスポーツはここまで進化
続いてJay氏はプロスポーツがデータとAIで劇的な進化をしていると述べ、2つの変化について言及しました。
紙のレポートからビッグデータ予測へ:かつてスカウティングレポートは紙でしたが、現在は過去100年分のビッグデータをAIが解析しています。 例えば、大谷翔平選手が打席に立った瞬間、「初球、カウント0-0の状況なら、60%の確率でツーシームが来る」といった具体的な予測がリアルタイムで提供される時代なのです。
「怪我」をAIで予測:MLBでは選手の約50%が手術を経験すると言われており、怪我は深刻な課題です。 ここでは過去数十年分のデータをAIが解析し、「どんな条件下で怪我が発生したか」を特定します。単なる投球数だけでなく、選手の身長の伸びなどの「身体的発達データ」と組み合わせることで、「12歳でこの体格の子が、週に100球投げると危険」といった「限界点(Breaking Point)」を予測。 これにより、一人ひとりに最適なトレーニングメニューを組むことが可能になり、未来ある選手の体を守ることにつながっています。
スポーツの未来は、日本で育まれる?
今年のワールドシリーズにおいて、日本での視聴者数は1,200万人(人口の約10%)に達しました。ドジャースにとって、日本はアメリカに次ぐ「世界第2位の市場」であり、非常にパワフルなマーケットとなりました。Jay氏は「日本は伸びしろのある市場」だと語ります。 現在、彼らの投資先約70社のうち、米国企業が60社、それ以外が10社程度ですが、「次の10年でこの比率が逆転し、米国以外の企業が中心になる可能性がある」と語っています。
宮田氏もテクノロジーでスポーツを少し良くするだけでなく、「テクノロジーを使って新しいスポーツ・エンタメそのものを作るフェーズになる」と語っています。タイガー・ウッズがデジタルのゴルフリーグ「TGL」を立ち上げたように、スポーツの常識は日々更新されています。
スポーツの現場が、新たな健康・文化をつくる土俵となりうる。
Elysian park venturesのホームページのファーストビューに書いてあるのは“We invest where sports intersects with life”「スポーツと暮らしが交わる場所に、投資します」とありました。スポーツと暮らしは一見かなり遠いように見えますが、実はプロのアスリートと一緒に開発することで、よりユーザー視点に沿ったプロダクトが可能となりますし、LOVBの事例ではジュニアリーグへの投資を積極的に行い、バレーボール文化を根付かせる活動となることが分かりました。スポーツの現場が新たな健康や文化を促進させる装置となる可能性を示しています。
▶Elysian Park Ventures: https://elysianpark.ventures/
ロサンゼルス・ドジャースのオーナーグループが設立した、スポーツ・メディア・テクノロジー分野に特化したグローバル投資ファームです。単なる投資に留まらず、ドジャースのネットワークやリソースを活用して、シードからグロース段階までのスタートアップと積極的に協業し、スポーツ業界全体の未来を創造することを目指しており、Oura Ringなどのユニコーン企業や女性・スポーツ分野のスタートアップにも投資しています。
▶スクラムベンチャーズ: https://scrum.vc/ja/
スクラムベンチャーズは、米国と日本を拠点にアーリーステージのスタートアップ企業に投資するベンチャーキャピタルです。これまでにAI&ロボティクス、気候テック、モビリティ、ヘルスケア、コマース、スポーツ&エンターテインメントなど幅広い分野の革新的な140社を超えるスタートアップに投資を行っています。資金提供に加え、事業成長支援、共同投資家の紹介、グローバル展開支援、事業提携先の紹介など、投資先企業の企業価値向上に取り組んでいます。子会社であるスクラムスタジオ株式会社を通じて、日本企業とグローバルスタートアップの新規事業創出も行っています。
Text 安並まりや

安並 まりや
株式会社 博報堂
新大人研
博報堂という広告会社で、新大人研という50代以上の生活者に関する調査・研究やマーケティング支援を行っています。

































