連載「明日の選択肢を変えるAgeTech!」では、アクティブチョイス世代の明日が変わるかもしれないAgeTechの事例を、日本最大のメディア総合イベントであるInterBEE2025からお届けします。InterBEEレポート最後は新しい補聴システムについてお届けします。

駅や空港、病院、スポーツ施設など、さまざまな場所で耳にするアナウンス。特に雑音の多い中では、聞こえにくさを抱える人にとっては、聞き取りにくい場面が少なくありません。

「目指しているのは、公共空間で流れるアナウンスを雑音に左右されず、ひとりひとりの耳元に届ける仕組みを社会に実装すること。ハンデをもつ人でも安心して快適に過ごせる、情報にアクセスできるインフラ整備が必要なんです」そう語るのは、新しい補聴支援システムの実証実験を行うプロジェクト「Voices for ALL」を牽引する、東京工科大学メディア学部講師の吉岡英樹さん。もともとは誰もが知るアーティストをプロデュースする音楽業界の出身。娘さんが難聴であったことから聴覚障害支援の研究をスタートしたのだとか。

この補聴支援システムは、大きく二つの方式を採用しています。一つは、Wi-Fiを使ってアナウンス音声を専用アプリに配信する方式。利用者はスマートフォンと補聴器や人工内耳を連携させることで、はっきりとした音声を聴くことができます。

もう一つが、Bluetoothの新技術「Auracast(オーラキャスト)」。Bluetoothは「1対1」の接続だったのに対し、Auracastは「1対多」での同時配信が可能。ひとつの音源から、複数の補聴デバイスへ、設定なしで直接音を届けられるのが特徴です。さらに、対応するスマホとアプリを使えば、音声を字幕として表示することもできます。

【Voices for Allの目的とAuracastの仕組み】

多くの展示ブースや来場者で賑わい、雑音の多いInter BEEの会場。実際にこのシステムを体験してみると、「あ、クリアに聞こえる!」さっきまでは耳を澄まさないと聞こえなかった情報が、驚くほどダイレクトに届いてきました。

システムの開発国のイスラエル、イギリスの駅やアメリカの教会ではすでに実用化。日本では、2025年11月に東京で開催されたデフリンピックで実証実験を始めたばかりです。補聴器、人工内耳だけでなく、ワイヤレスイヤホンを通して利用できる点も、この仕組みの大きな魅力。難聴者に限らず、雑音が多くアナウンスが聞きにくい場所で、誰にでも役立つ可能性を秘めています。

音声アシスタントが、未来の必須インフラのひとつになる

“Auracast”は新たな選択肢として、スマートフォンやワイヤレスイヤホンへの対応が今後さらに広がっていくといわれています。日本では、およそ10人に1人が難聴を抱えている*とされる今、聞こえにくさを個人の問題にしない、音の届き方を変えることで、社会のかたちそのものを変えていく

このプロジェクトは、安心して外に出かけられる日常を支える、
そんな未来への一歩を示しています。

*日本補聴器工業会JapanTrak 2022調査報告書 https://hochouki.com/files/2023_JAPAN_Trak_2022_report.pdf

詳細はこちら
YOSHIOKA LAB.:https://yoshioka-lab.org/

Text 安並 まりや

安並 まりや
株式会社 博報堂
新大人研
博報堂という広告会社で、新大人研という50代以上の生活者に関する調査・研究やマーケティング支援を行っています。